2013/09/12

老ラーメン

地元で一番旨いと評判だったラーメン屋が近所にある。
我が地域は都会と違ってラーメン偏差値は低く、世間で流行っているよな豚骨ベースのこってりラーメンは皆無であるが、シンプルな田舎風醤油ラーメンは低偏差値なりに幅を利かせていて、都会を凌駕する事もある。

そんなあっさりしょうゆを突き詰めており、店長がおじいさんでその奥さんのおばあさんとその娘二人(これもすでにおばあさん)で切り盛りしている伝統あるお店である。
その歴史はかなり古く、戦前から存在していたらしい。
しかもメニューはラーメン大中小の三つしか無いという自信っぷり。
でもコレが旨くて、昼前になると行列ができ、一時過ぎても食べられないという事が良くあった。

そんな評判も数年前の事までであった。
この前久しぶりにその店を訪れたのだが、おじいさんは健在なもののよぼよぼ感が凄まじい事になっており、「まだ生きてんだなー」と生存を喜びながらも少し悲しくなった。
注文を済まし、昔と変わらない位置にあるブラウン管極小テレビに釘付けになっていたのもつかの間、ついにラーメンがやってくる。

見た目はあのままで昔の記憶がよみがえる。
透き通るような醤油ベースにコレでもかと加えられた味の素。
そして素朴なチャーシューにネギともやしとめんま。
そのいかにもなラーメンのスープを味わったその瞬間であった。

味が違うのだ。

全く旨くない。
味がぶれているという表現がふさわしかった。
分量を間違えているというか、いろいろバランスがおかしな事になっており、旨さのパーツはそろっているもののそれががっちりと嵌っていない。
あんなにうまかったラーメンの劣化に悲しくなった。
まあもうよぼよぼのジジイだし、味がわからなくなるのも仕方ないかもしれない。
老化には勝てないと思うと凄い切ない。
もうあの味は出せないのだ。
おじいさんが店を去ったら全てが終わり、思い出も途切れて行く。
諸行無常。