密室トリックだったりアリバイトリックだったりと、「犯人が探偵」を欺くものが基本的なものです。
しかし叙述トリックと分類されるものはコレとは少し違って、「作者が読者」を欺くためのものなんですね。
小説は文章のみで構成される事をいい事に読者の思い込みやミスリードを誘い、意外な事実を隠蔽する、コレが叙述トリックなんです。
例えば、「主人公は男だととれるように描写していてじつは女だった」とか「二人の登場人物であるように描写して実は一人の事だった」みたいなものがあります。
登場人物の周知の事実を読者にだけ教えない、みたいな。
基本的にミステリにおいて映像化不可能と言われている作品はコレがある事が多いです。
まあ引っ掛けクイズを小説全編に張り巡らしたって感じですね。
僕はこういうハッとさせられるのが大好きです。
ミステリを読んでいて一番好きな瞬間がこの瞬間かもしれません。
意識の外からガツンと殴られたような衝撃が堪りません。
そして全て読み終えたあとにもう一度確認すると確かに嘘は書いてない!ってときの確認作業の時の幸福感は至高。
まんまと企みに嵌められたらココまで爽快になるんですよ。
しかし、このトリックの欠点は耐性がついてくる事なんです。
言ってしまえば一発ネタ。
一度使ってしまえばもう二度と使えないし、同じよなネタをされてもたいした驚きはありません。
しかも必然的にネタバレ厳禁になるので、皆でおおっぴらに語り合えないという欠点もあります。
あと「叙述トリックがあるよ」って分かった状態で読んでもそのサプライズは半減されてしまうのです。
性質上、悲しい運命を背負っているトリックでしょう。
叙述トリックの傑作なんて作品を生み出してしまった作者なんかはいつまでもその呪いにつきまとわれるのですね。
新しいものを出しても必ず過去のものと比較され勝手にガッカリされる。
創作においてはつきまとうものかも知れませんが、叙述トリックは性質上その傾向が強いと思います。
また、ネタも有限です。
捉えようによっては無限の可能性を秘めていますが、何冊もそういう系をたしなんでいると大体の傾向が把握できてきて、出会い立ての時のような衝撃とときめきは無くなっていくものです。
舌が肥えて来てしまった時の悲しさったらない。
最近ではもう叙述トリック一発大ネタって感じではなく、一つの作品に何個も仕込まれていたり、さりげない要素として取り入れられている事が多いですね。
既存のネタをいかにアレンジできるかってところも重視されている気がします。
まあもう出尽くしたみたいに嘆いている僕は凡人なのでそう思っているだけかも知れません。
まだまだ可能性はあると信じています。
その中でも特に麻耶雄嵩には期待したいです。
メルカトルシリーズでおなじみ、熱狂的な信者をもつマーヤ。
そのゴリゴリに尖りきった作品達は舌が肥え、普通のミステリで満足できなくなった人たちの受け皿となり、一部(?)で爆発な人気を誇っています。
僕は特に「蛍」と「鴉」この二つの長編が大好きです。
ちょうどミステリを読み始めてしばらくして、 最初はビビったけどこんなもんかよと少し調子に乗っていた時期に出会えたのが良かった。
ネタバレになりますが、いわゆるこの作品達も叙述トリックを使用していて、その使い方が凄かったんです。
逆転の発想と言うか、まだまだこのトリックの可能性を見いだせて嬉しくなりました。
是非読んでいただきたいと思います。
最近では貴族探偵の「こうもり」という短編が凄まじかった。
嘘は書いてないよ?というドヤ顔が目に浮かびます。
同時にこのトリックを考えつくのは素人には無理だなと思わされます。
あと頭こんがらがらずに良く書けたと感心する事間違い無しです。
出来れば記憶を消してもう一度。