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〈和牛 結婚式を抜け出す〉
川西賢志郎:どうも、えー和牛です。
お願いしますー。
水田信二:お願いしますー。
川西:あのーこれ昔から恋愛ドラマでよくあるパターンなんですけどね、
水田:なんでしょうか?
川西:ヒロインの女性が、結婚式を抜け出して本当に好きな人に会いに行くみたいなシーンあるじゃないですか。
水田:あー、よくありますね。
川西:僕、ああいうの素敵やなあと思うんですよー。
水田:ボクはね、全然素敵やとは思わないですね。(①15秒)
川西:(ん?という顔)
水田:だって、あのヒロインやってる事自分勝手すぎますもんね。
考えられへんよね。
キツいキツい、引く引く。(②20秒)
川西:いや、でも考えてみ?
水田:ん?
川西:ウエディングドレスのまま駆けつけてきて、
「水田くん。私やっぱりあなたのことが好きなの!」
こんなん言われたら嬉しないか?
水田:(コントイン)えっ?君さあ、ウエディングドレスで来たって事は、結婚式抜け出してきたん?
川西:うん、私やっぱり水田くんが好きって気づいてん。
水田:びっくりしたなあ。
滅茶苦茶迷惑かけてきてるやん。(③43秒)
えっ、式場大騒ぎにならんかった?
川西:…あっ、でも!彼が「アイツんとこ行けよ」って言ってくれたから、私ここに来る事が出来た訳で…
水田:あぁ、ちょっと待って待って待って。
ここに来てる事、彼のせいにしようとしてない?(④55秒)
それはちょっと違うんじゃない?
川西:そういうつもりはないよ。
水田:それは卑怯すぎるよね?
川西:違うよ。
水田:引く引く。
引いてる引いてる。(⑤1分)
川西:違う、違う。
…私、別に彼に「行けよ」って言われたから来た訳じゃないし、「行けよ」って言われてなくても来てたよ。
水田:あっ、元々来てくれるつもりやったん?
川西:うん!
水田:じゃあ、結婚式出たらアカンやん。(⑥1分12秒)
…何?じゃあ、最初から抜け出す気やった訳?
川西:…いや、最初からとかいう…
水田:なんやったらそのウエディングドレス選んでる時も、
「ねえねえ!私このドレスがいーなあ!」って言いながら「私ほんとは当日途中で抜け出すんやけどね」って思ってん?(⑦1分23秒)
川西:思ってないよ!
水田:「ねえ!ここの式場いいやん!ここに決めよお!」って言ってる時も、「ここやったら抜け出しやすそやなあ…」とか思ってん?(⑧1分28秒)
川西:思ってないって、だから!
水田:んな、向こうの彼には悪いなあとは思ったんや?
川西:当たり前やんか。
水田:じゃあ、どんな感じで来たん?
川西:え?
水田:彼に行けって言われて、どんな感じで来たん?
川西:それは「ありがとう」って言うて来たよ。
水田:そんなアッサリ言うて来たの?引く引く。(⑨1分40秒)
川西:今みたいな言い方じゃないよ、実際は。
水田:あっ、ほんなら実際のやつ見して?
川西:えぇ?
水田:だから、彼に「行け」って言われて、どんな感じで来たか実際の間ぁで見してみてって言ってんねん。
川西:なんでそんな事をせなアカンの!?
水田:「お前、本当はアイツのこと好きなんだろ?…行けよ!」
川西:(溜めて)「…ありがとう」
水田:OK。その感じで来たのね。(⑩2分1秒)
ほな、その間に何考えたん?
川西:え?
水田:「(溜めるムーブ)…ありがとう!」のここ(溜めるムーブ)で何考えたん?(⑪2分7秒)
川西:そんな顔してない私!
水田:なんか俺には行く前の助走つけたようにしか見えんかったんやけど。(⑫2分11秒)
川西:そんな訳ないやんか!
水田:やっぱアッサリ来てるやん。
川西:…私、水田くんが好きやからここ来てんで?
式抜け出したんは、水田くんと結婚したいからやねんで!?
水田:でも、そんなん言われても正直疑ってまうんよね。
「俺ん時の式もまた抜け出すんちゃうかな」って。(⑬2分23秒)
川西:えぇ…なんでそんなん言うの?
…わかった、もういい。戻る。
もう水田くんの事は嫌いになったから戻る!
水田:何て言うて戻るん?(⑭2分31秒)
…いや、言っとくけど式抜け出すより、戻る方が大変やで?(⑮2分36秒)
…「戻ってきたー!?」ってなるもん。(⑯2分40秒)
えっ?どうすんの?もう向こうに断られる可能性も今あんで、君?
川西:…ちゃんと謝ってもう一回、式やり直してもらいます!
水田:やり直すってどっからやり直すん?
えっ、誓いのとこからやり直すの?神父さん困るって。
だって、一回誓って裏切った奴がまた来んねんから。(⑰2分52秒)
…「ヤッパリ、チカイマスカ?」って。(⑱2分56秒)
…どうするん?
川西:…「誓います!」って言うよ!
水田:「Oh…Deja vu…」(⑲3分3秒)
…まあ、すごい変な空気なるよ、その場はね。
でも、それ君が身勝手な行動ばっかとるからやで?
何やっても許されるやと思ってるやろ。
そういう浅はかで傲慢な考え方まず直さなアカンで。
川西:何でそこまで言われなアカンの?
水田:いや、君がおかしいとこだらけやからやん。
だって、君は俺のこと好きやのに向こうの式出て、
んで、向こうに「行け」言われてこっち来て、今度また向こう戻るとかやってるやん。
そういう君のどっちつかずで中途半端な行動で周りがどんだけ迷惑かかってるかわ…
川西:じゃあ、どうしたらいいの!?
私、どうしたらいいの!?
水田:そういうとこやで。
「どうしたらいいの?」じゃないくて、どうしたいの?(⑳3分30秒)
…全部他人に決断さしてるやん。
自分が悪者になりたくない奴ってそうやって言うねん。
なんかあった時に「いや、私自分で決めてない!言う通りしただけやから!…
川西:なんでこんな事なってんの?(㉑3分41秒)
水田: …私違うの!」
責任取るつもりはないねん…
川西:なんでこんな事なったん?
水田:…自己責任、そう、そんなん関係ないねん。逃げ癖…
川西:こんな筈じゃなかった…(泣き出す)
水田:…ああ、泣かんといてよ。
好きな人の涙を見るのは辛いから。(㉒3分49秒)
川西:(!? )
水田:…勘違いせんといてや、ホンマに好きやねんで。
俺、この先の人生で君より好きな女性に出会う事はもう2度とないと思ってるよ。
川西:じゃあ、なんでそんな言うてくんの…!?(㉓3分59秒)
どうかしてるわ!
水田:フw、どうかしてるのはそっちやろw
だって、君は俺の事好きやのに向こうの式に出て…
川西:怖い!怖い!怖い!怖い!(㉔4分4秒)
水田:…向こうから戻ってきて、また向こうに戻るとこやってん?…
川西:待って待って待って!
水田:…なんで俺がわかってないん?
君が自分の間違えわかってくれたらこれ以上話さん…
川西:わかった、やめて!私が間違ってた、ごめんなさい!
水田:わかってくれたの?
川西:わかったよ、もう…!
水田:じゃあ、結婚してあげる!(㉕4分14秒)
川西:出来るかあ!
もうええわ。
水田&川西:ありがとうございました。(4分16秒、笑いポイント25個)
〈全体の分析〉
256秒で笑いポイントは25個といままでのコンビと比較するとちょうど平均辺りの手数となっています。
こちらもコント漫才となっており、特徴としては一旦コントに入るとボケもツッコミも両者役柄のまま進行し、素の人格に戻らずやりとりを続けるというもの。
そういう形式の漫才ってのは「コント」だと捉えられがちですが、この漫才のベースとしては、「結婚式を抜け出すというシチュエーションが素敵」と持論を展開する川西に、真っ向から反対する水田という構図が存在し、コントインしてからはそれぞれの主張を認めさせ合う「対決」となっているのがポイントなのです。
ただシチュエーションがやりたいのではなく、そのシチュエーションは素敵、素敵ではないと互いに主張を通し、論破したい論破されたくないという思いが根底に存在します。
ですから、コントインして彼氏と彼女をそれぞれ演じるというルールの中で、実際の水田と川西の主張がせめぎ合うというちょっと入り組んだ構造の漫才となっています。
したがって、「結婚式を抜け出してきた女」と「それに反対する屁理屈彼氏」というコントではなく、あくまで役を演じながらも導入時の水田と川西の人格がその役柄のセリフには介在するのが特徴。
ぱっと見、コントでもいいやんと思ってしまいがちですが、もしコントとしてこのネタをやろうと思うと、大前提として水田は結婚式を抜け出してくる彼女の事を待つ事はできません。
「抜け出してきて迷惑やろ」って最初に主張するので、設定としての抜け出してきた彼女を待ってるっていうシチュエーションは完全に矛盾が発生してしまうのです。
まあ、水田の職場にやってくるとか、そういうアレンジでコントとして成立させることは可能ですが、そうなるとまた別のベクトルのネタになってしまうのです。
第一、コントですと川西がウェディングドレス姿でやってくるってのもありますし、この漫才でやりたい事とはとブレが生じます笑
そして、典型的なコント漫才は「抜け出した花嫁やりたいから彼氏やって」のような協力体制を前提にした世界の中での非協力がボケとして笑いにつながるのですが、この漫才に関しては、最初から非協力体制下において始まり、その中で世界を崩さない(役割を降りれない、降りたら負け、というかボケがないので降りてツッコめない)というルールの下で、非協力合戦が行われるという構図になっています。
典型的なコント漫才だとすると、最初の「抜け出してきた」に対する、「めちゃくちゃ迷惑かけてるやん」というのが非協力というボケなので、「シチュエーションやりたいのに邪魔するな」という意味合いで突っ込む必要性があります。
まあ、形式的にはディベートなんですよね。
意地の張り合いというか、水田の正論に対して川西が役を降りて突っ込むとその時点で川西の負けが確定してしまうのでコントを降りる事はできないのです。
というか我々からすると水田の発言はボケですが、川西からするとボケでもなんでもなく、理屈っぽい正論をぶつけられてるだけなんですよ。
だからツッコミという役割を持ってますが、素の川西からするとツッコミどころが一個もないんですよ。 (勿論、劇中の彼女としての指摘はできますが)
現に素で突っ込むのも、オチの水田の「じゃあ、結婚してあげる!」というセリフだけですし、ここの部分だけが明らかに川西からしてもツッコミどころというかボケ扱いなんですよね。
よって、うがった見方をするならこの漫才のボケはひとつだけなのです。
つまり、対決形式であるため、あくまでも役割を演じながら自分の主張を有利に通せるか?というディベートの構図がこの漫才には発生しているといえるでしょう。
要するに喧嘩です笑
そして水田は自分の素と等しい人格を演じればいいのでまだ楽ですが、川西に関しては、「結婚式を抜け出してきた女」を演じながら、素敵さを問う必要性があるため、かなりハンデがあるというか、圧倒的に押され気味になってしまいます。
その典型的な女を演じると明らかに墓穴を掘ってしまい、水田はどんどん屁理屈で突っ掛かり論破していく様が実に爽快というか、このネタのキモであることは間違いないでしょう。
途中からは、自己中心的で短絡的思考の女性批判にシフトしていってるのがまた、ネタ製作者の思想が反映されまくっていて面白いです。
話の流れとしてはドラマでよくある結婚式を抜け出すシーンが素敵と主張する川西に対して、そんなことないと反論する水田。
実際に役柄に入り込みながらそれぞれの主張を通し合うようにコントイン。
「抜け出すのは迷惑」と正論を述べると女は「戻る」と言い出しますが、「それをやるのは大変やで」と正論をかまします。
そして、「どうすればいいの?」と困り果てる女に「人のせいにせず自分で考えろ」とこれまた正論をぶちまけ、最終的には「君のことが好きだからやってるんやで?」と狂気の愛発言が飛び出します。
それに対して、女は恐怖を感じますが、狂気を露わにした男の暴走を止めるために、己の過ちを認め、許しを乞います。
そして、「じゃあ結婚しよ」と狂気全開まで至ったところで、流石に論点ずれてきたため、川西が素のツッコミを行い、オチとなります。
とにかく演技力がこの漫才の9割ぐらいを占める要素であり、正直書き起こしてもほとんどその面白さのニュアンスは伝わらないでしょう。
ぜひ、実際の映像で確認することをお勧めします。
川西の顔の演技と女性的な仕草が非常に見事であり、本物の女性に見えてくるところが素晴らしいです。
対して水田も、本当の人格はどうか知りませんが、いかにも屁理屈正論を吐きそうなキャラクターとしては完璧なルックスと演じ方であり、自分たちの持ち味を最大限に発揮しているネタであることは間違いないでしょう。
表情や言い方などの小技でのボケ方も器用ですし、今回の決勝メンバーの中では両者ともに一番漫才としての演技が上手いのではないかと思いました。
二人の掛け合いも笑い待ちや反論のための間を非常に贅沢に使っているのが特徴的であり、見る人に感情輸入を煽りやすくなっていると思います。
〈笑いポイント一覧〉
ボクはね、全然素敵やとは思わないですね。(①15秒)
導入で「結婚式を抜け出す」という話題に対して否定的という開口一番のボケ。
この時点でネタの導入を否定するってのが、スカしっぽく思えてしまいます。
また、こういう初っ端での対立構造ってのは、ザマンザイで披露した「頑張っていきましょう」のネタのような、本来やるべきコントインや話をすることなく、本筋とは別で始まるメタ漫才を想定しがちです。(アルピーの忍者とかそんな感じ)
しかし、対立構造を維持しながら話は進めていくのがこのネタの特徴。
どちらかというとブラマヨのような喧嘩漫才に近い構図の喧嘩コント漫才であると言えますね。(対立ベースのコント漫才といえば、さらば青春の光が敗者復活戦で披露した「娘さんをください」もあります)
キツいキツい、引く引く。(②20秒)
言い方という小技でテンポよくボケます。
ここでひと笑いは挟んどかないと、序盤に結構間延びした印象を与える可能性がありますからね。
というか、言い方や表情などでの小技ボケを挟むことにより、ただでさえ嫌味なネタにポップ感を与えているのでしょう。
滅茶苦茶迷惑かけてきてるやん。(③43秒)
そして30秒程度でコントイン。
「〜って言われたら嬉しないか?」という素での質問に対し、演技の役柄で返答するというのがやや変則的。
川西も演技で返答されたら思わず演技で返すという漫才の暗黙のルールを使ってるってのがちょっとメタ的ではありますね。
「びっくりしたなあ」で相手に一瞬期待させ、一拍間を置いてからの「滅茶苦茶迷惑かけてきてるやん」で丁寧にボディーブロー。
それに対する川西の演技もまさに「…!?」というマークが見えるようで非常に素晴らしいです笑
ここに来てる事、彼のせいにしようとしてない?(④55秒)
女側はあくまでも「彼氏も行けよって言ってくれたから来れた」と主張し、反論を交わします。
こういう時系列遡れるような言い訳はあくまでも、川西が反論を避けようと設定を自ら作り出しているだけなのがポイントです。
川西が女性として発言する前にかなりの長さの思考タイムがあるのですが、あそこで熟考しているのは、彼女ではなく役柄を降りている状態の川西だと考えると整合性がとれます。
しかし、その言い訳虚しく速攻で論破されていく様が面白い。
ここでこの漫才が論破システムで出来上がっていることをお客さんに了解させます。
引く引く、引いてる引いてる。(⑤1分)
淡々と放つ引く引く発言という言い回しでのボケ。
先ほどのボケに被せてきて、老獪に笑いを取っていきます。
じゃあ、結婚式出たらアカンやん。(⑥1分12秒)
そして再度長いシンキングタイム発生。
「彼氏に行けと言われたから来たのではなく、何も言われなくても来た」という最もらしい言い訳をチョイス。
そうするとすぐ反論するのではなく、「元々来てくれるつもりやったん?」と確実な言質をとってからの、正論発動。
こういう細かい嫌味な論破テクニックが上手いですよねえ笑
なんやったらそのウエディングドレス選んでる時も、
「ねえねえ!私このドレスがいーなあ!」って言いながら「私ほんとは当日途中で抜け出すんやけどね」って思ってん?(⑦1分23秒)
そして畳み掛けるように、「ということは最初から抜け出すつもりだったわけ?」と攻め立て、嫌なところをついてきます。
このセリフ内の想像上の彼女演技のディティールが丁寧であり、普段の淡々と真顔でまくし立てる様子との対比が光ります。
抜け出す時の企み顔とか素晴らしい。
「ねえ!ここの式場いいやん!ここに決めよお!」って言ってる時も、「ここやったら抜け出しやすそやなあ…」とか思ってん?(⑧1分28秒)
そして追撃の同シリーズ二発目。
和牛のこのネタの特徴としては、一つの言い訳に対して水田の屁理屈ボケが複数仕込まれており、畳み掛けるようになっているのが特徴的です。
こう何個も思いつくってことは水田は本当にこういう奴なんでしょう笑
こちらの企み顔と演技も先ほどより大げさになっていて、がっちり流れで笑いを取ってます。
彼女もここら辺から追撃を重ねられ、動揺から若干の怒りにシフトしていってます。
そんなあっさり言うて来たの?引く引く。(⑨1分40秒)
そして流れるように、「じゃあ向こうの彼氏に悪いと思ったの?」と再び言質を取り、「どんな感じできたん?」と追い詰めると、あっさり回答。
それに対してこのセリフ。
「引く引く」を再度かぶせてきて、笑いのテンポを落とさないように工夫しているのが伺えます。
そして、「実際の間で見せろ」と再現に入ります。
コントの中でコント(厳密には再現ですが)に入るという入れ子構造が一瞬、見る側としては「どういうこと?」って感じでヒヤッとしそう。
OK。その感じで来たのね。(⑩2分1秒)
過剰なまでの再現演技でもはやボケにしか見えず、確実に餌を与えにいってます。
対して、食い気味での「その感じね」というのも、「なぜこの男はそこがそんなに気になるんだよ」という視聴者のツッコミ心を煽ります。
なんというかこのネタは漫才の癖に明確なボケツッコミのやりとりじゃなくて、状況で笑わせるってネタだから解説が非常に描きづらい。
「(溜めるムーブ)…ありがとう!」のここ(溜めるムーブ)で何考えたん?(⑪2分7秒)
そして過剰演技にもちろん水田も引っかかり、お客さんの代弁者のようなツッコミ。
水田が質問→女性が回答→そこに水田が突っかかるというのが基本構造であり、最初の方は、女性の回答に「なんでここに突っかかるんだよ」という「突っかかるポイントが屁理屈すぎてボケになる」という種類の笑いですが、ここからはちゃんと正しいツッコミをして純粋な種類の笑いにシフトチェンジしていってます。
それと同時に顔の過剰演技がありますので、同時にボケ要素も存在。
彼女もちゃんと間髪入れずに突っ込んでくれます。
ちょっと似たようなので三四郎のネタがこの要素を含みがちだと思いました。
相田のボケに対して、小宮がツッコむのですが、そのツッコミ方が独特すぎてツッコミ内容は正しいんだけど、同時にボケ要素も含まれている的な。
そして相田はそこに引っかかりを覚えてツッコミ返すけど、小宮はさらに反論し、そこはボケツッコミの構図が逆転という感じです。
なんか俺には行く前の助走つけたようにしか見えんかったんやけど。(⑫2分11秒)
そしてたとえツッコミで二個目を老獪に取りにかかります。
水田は役割としてはボケなんですが、ここは純粋なツッコミとして笑いを取る。
彼女はもちろん自分がボケではなく、天然でその行動をやっちゃってるのでツッコミ返します。
そして彼女の怒りのボルテージもさらに上がり、「水田くんと結婚したいからここきたんやで!?」と純粋な気持ちを再確認させます。
この彼女の怒りというのは同時に素の川西の怒りでもあるので、もう当初の「素敵、素敵じゃない論争」は怒りで忘れ去られてしまってます。
中の人である川西はどうにかして水田を論破したい、納得させたい!という方向性へギアをチェンジ。
でも、そんなん言われても正直疑ってまうんよね。
「俺ん時の式もまた抜け出すんちゃうかな」って。(⑬2分23秒)
ここらあたりから正義が完全に彼氏の方に移ります。
これまでは、「まあ正論だけど無粋なこというなよ」的な水田の屁理屈だったのですが、彼女側が怒りに任せた発言になってきたので、これまでの積み重ねもあって、まさに「論破」という笑い。
何て言うて戻るん?(⑭2分31秒)
そして、完全に決裂。
彼女は「もう戻る」と言い出して墓穴を掘ります。
彼氏に振り向いて欲しい女性らしい発想といいますか。
論理的思考vs感情的思考の対決というフェーズへ。
…いや、言っとくけど式抜け出すより、戻る方が大変やで?(⑮2分36秒)
ここら辺は畳み掛けますね。
彼女の方も「やられた」という感じの諦めの表情が上手い。
…「戻ってきたー!?」ってなるもん。(⑯2分40秒)
そして追い討ちの3発目。
水田も自分側の正義を堪能しまくってテンション上がりまくってます。
そして、正義を露骨に振りかざし、「向こうに断られる可能性もあんで?」と相手を
諭し始めます。
もうイニシアチブを取ったので逆にちょっと暴走気味というか感情を露骨に逆撫でし始めるのもこっからです。
だって、一回誓って裏切った奴がまた来んねんから。(⑰2分52秒)
彼女も「ちゃんと謝ってもう一回やり直す」と暴走。
川西としてもただこの喧嘩に勝ちたい一心でそんな無茶苦茶なことを言っちゃうんですよねえ。
んで、女性という役割を演じる以上、こうあべこべな理論へ飛躍。
というか(この漫才における)素の川西自身も「結婚式抜け出すのは素敵」と言ってるので、女性的な要素が大きいような気がします。
そして、水田も「やり直すってどっからやり直すん?誓いのところからやり直すん?」と露骨に状況を指定し、「誓い」「裏切り」という対比でボケの強度を強めます。
…「ヤッパリ、チカイマスカ?」って。(⑱2分56秒)
やはり毎回畳み掛けます。
神父が外人というあるあるに加え、外人にこういうセリフを重ねるというミスマッチさが逆撫で感を強めます。
この時に上戸彩抜かれるんですけど、その笑顔が最高笑
「Oh…Deja vu…」(⑲3分3秒)
こう言われる可能性あるけどどうする?と自らの発言に非があることを認めろと言わんばかりに諭します。
しかし、彼女は「それでも誓うよ!」と墓穴を再び。
それに対して、外人神父という設定を生かし「デジャブ」と母国語で重ねる。
やっぱり一個目のボケの設定を生かして、尚且つちゃんと超えてくるってのが決勝上がってくるだけあって徹底してるなと。
「どうしたらいいの?」じゃないくて、どうしたいの?(⑳3分30秒)
そして30秒程度をかけ、今までの論争をおさらいしながらじわじわと彼女を追いついめていき、反論の余地を与えません。
あと、ダイレクトに「そういう浅はかで傲慢な考え方まず直さなアカンで」って言っちゃってるっていうね笑
そうなると、彼女もついに爆発し、「じゃあ、どうしたらいいの?」という墓穴ワードを引き出されてしまいます。
ここがこのネタのハイライトであり、一番取りに行きたい場所であることは間違いないでしょう。
というか水田はこのセリフを言いたいがためにネタ作ったとすら考えられます笑
なんでこんな事なってんの?(㉑3分41秒)
そしてこっから十分に正義を振りかざした水田の暴走がスタート!
彼女は我に帰り、水田の異常性を自覚し始めて、この観客に呼びかけるような素朴なツッコミ。
ここで見る人も視点の切り替えが起きたことでしょう。
…ああ、泣かんといてよ。
好きな人の涙を見るのは辛いから。(㉒3分49秒)
ノンストップでまくしたて続ける水田を無視し、ついには「こんな筈じゃなかった」と泣き始めてしまいます。
個人的には、「どうしたらいいの?じゃなくてどうしたいの?」というボケを生かして、その第二弾で、困ったら泣き始める女に対しての追い討ちDisかと思ってました。
しかし実際はそこまでdisっといて結局見せるのは愛情という狂気!
オチに向けてぶっ壊しにかかります。
ここでお客さんからは「フゥ〜」と声が上がってましたが、それはさすがにリアクション間違いというか本人たちは想定してなかったでしょうねw
このセリフで喜べる人たちって、彼氏にボコボコにされたあとに「でも愛してる」って言われて抱きしめられたら全部許せちゃう人ってことですよ!
まあ、ツンデレと捉えることもできますけど、さすがにこの発言はあんだけ畳み掛けがあるんだから、どう考えても一線超えてる人の合図でしょう。
とは言っても、川西のリアクションがどっちともとれるってのがあるんで露骨に真意に誘導してない気もしますが。
次につなげることもできますし。
じゃあ、なんでそんな言うてくんの…!?(㉓3分59秒)
そして、「勘違いせんといてや、ホンマに好きやねんで。俺、この先の人生で君より好きな女性に出会う事はもう2度とないと思ってるよ」という狂気畳み掛け。
これには彼女も思わずドン引いてツッコミます。
やっぱここは二発目作ることによって、リアクション間違えした人にもしっかりと狂人であることをアピール。
怖い!怖い!怖い!怖い!(㉔4分4秒)
「どうかしてるわ!」と突っ込むと、「どうかしてるのはそっちや」と先ほどの件をもう一度用いながら機械的に淡々と反論。
三段構えでもう露骨に狂気を出しまくりで、彼女からも怖い連呼が飛び出します。
もうここは、ネタをぶっ壊していく段階です。
じゃあ、結婚してあげる!(㉕4分14秒)
そして、彼女は自分の過ちをここでやっと認め、川西自身も負けを認めます。
もう論争関係なしに暴走を止めるための措置でしょう。
そしてオチにこのセリフ。
積み上げて積み上げてこのセリフだけが川西にとっての露骨なボケであり、ようやく素でツッコみ、コントから降り、そのまま漫才終了となります。
しかし、「できるかあ!もうええわ」のカッコつけ感が異常。
関西の漫才師はフット後藤を筆頭に露骨にここで決めにかかりますよねw
解体してみると、水田の役割が、屁理屈難癖付ける人→ド正論を吐く人→愛ゆえの狂人という三つのフェーズに変化していってるのが分かります。
観る人にもその視点と役割の切り替えを感じさせるのが上手いなあと思いました。
屁理屈漫才と言いながらもその要素一本ではなく、演技の小技で笑わせたり、屁理屈からだんだんとシフトさせていく様が流石の一言に尽きます。
あと、役柄を演じながらも、下地となる素の人格が介在するというメタ的な部分が多いので非常に入り組んでいて、分析しようとするとちょっと考えすぎて、こんがらがってしまいます。
芸人ってこういう漫才ルールを意識してネタ作ってんだなあと改めて実感。
それと同時に、漫才なんて頭からっぽにして観るのがどんだけ楽しいことかと笑